自分たちの欲しい人材を定義しよう

内定が決まった学生に,(過度な)課題を(2月までは)出さないで下さい!!! - 柴田教授のひびきの放送局

どうして「入社前の学生に課題を与える」ような事態になってしまうのか?

企業は所望のレベルの学生を採用できないから

全ての会社がそうであるかは分からないが、少なくとも多くの会社は適切に学生を採用できていない。

例えば、うちの会社では「大学時代に情報科学を学んだわけでもなく、Linux を触った事があるわけでもなく、通信やコンピュータシステムに興味があるわけでもないのに、推薦で入社してくる学生」みたいなのがいる。人事が技術者の採用を甘く見ているという事もあるだろう。しかし、そもそもまとまった数の優秀(必要なスキルを有していて、意欲の高い)な学生を採用をする事が現実的に不可能という事が起きていると思われる。これは、世の中にいる学生が優秀ではないというわけではなく、優秀な学生を採用できるような優秀な企業は一握りという事だろう。

話を戻すと、上記のようなケースの場合は、ひとまず学歴の高い(いわゆる良い大学を出ている)学生を集めて、最低限必要な教育を施し、何パーセントかがまともに使えるようになればオッケーというような戦法になる。

理想としては、

  1. ある程度どの部署でも共通してあった方が良い知識(情報科学など、基礎的、学問に近いもの)を全体研修で行う
  2. 各部署で、その分野に特化した知識(例えばサーバを扱うところであれば、Linux などの OS の知識や、ストレージで使用する RAID の概念、ロードバランシングなどネトワークファンクションなど)

を段階的に学ぶのが望ましい。

実際には、各部署はそういった教育を体系的に施すような土壌が備わっていない(教育に力をいれるほどリソースが足りない、どのように体系立てた研修をすればよいか分からない)。場合によっては、全体研修を行うほど会社に体力的余裕がない。後者の場合は、事前課題というような形で大学に跳ね返ってしまう。

人事担当者の短期的な評価のため

そもそも新卒採用担当者はどのようにその実績が評価されるのか。

本来の目的は「会社の業績に貢献できるような人材を確保する」という事だが、新入社員が活躍できるのは 早くても 1 年はかかる。活躍の度合いによって、何年後かの採用方針を転換する事はできるが、その年々の採用について「上手くいったかどうか」を評価する術はない。

となると、人事の新卒採用担当者を評価するためには別の短期的な物差しが必要になる。例えばそれは、新たな採用ルートを開拓した、というものがあるかもしれないが、そういった評価のための取り組みに「事前課題を与えて採用する学生の能力の底上げを行なった」みたいなものがあったりするのかもしれない。

個人的に思うところ

新たな学びを始めるのに遅すぎる事はないとよく言われるが、大抵の場合は積み重ねだ。例えば、学問においては、義務教育をきちんと受けていればこそ、大学に入った時に種々の専門分野において理解が深まる(または効率的に理解できる)ようになる。音楽においても、ピアノで基礎的な感性を身につけた上で、個々の楽器の技能を深めるというプロミュージシャンが多い。

今の世の中、歯車になるような社員をたくさん採用するような時代ではない。自動化、高度化が進んでいる中で、単純作業者はホワイトカラーの中でも減っていく。会社は、本当に自分たちが必要とする人材というものが何なのかを定義し、それを取ることに執着するべきだろう。その人材が新卒かもしれないし、中途採用かもしれないが、少なくとも新卒は毎年何百人も取っているにもかかわらず、中途はそこそこしか取らないというのは、その会社における「考えられた戦略」に即しているのだろうか?