The High-Velocity Edge - Chapter 10 (1)

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危機的状況下で、High-Velocity Organization はどのように力を発揮するか。

The Crisis That Wasn't

1997 年 4 月 2 日、日本国内の Toyota の工場は、事実上操業停止し、一週間ないしはそれ以上の間、再開の目処が立たない状況に見舞われた。ブレーキメーカの工場が火災に遭ったのだ。そのメーカの工場は、 3 つのブレーキとクラッチのパーツ供給ができなくなった。当時、Toyota の工場は 16,200 台の車両を製造していた。 

これは大きな危機であった。Toyota のサプライヤである Aisin Seiki は P-valve と呼ばれる製品を製造していた。これは、単価としては 5 から 10 ドル程度であるが、安全上なくてはならない製品であり、設計には特許があった。製造には精密機械を必要として、それらは 100 にものぼる特殊な機械によって成り立っていたが、それらが全て火災により壊れてしまった。そして、バックアップもなかったのだ。Aisin は 99 パーセント近いシェアを有していた。

次の日、The Journal はこのような巻頭記事を書いた。「多くのサプライヤが打撃を受けているが、Toyota は金曜日までに復旧する見込みだ。」

Toyota Motor Corp. は「通常運転に近い」製造を 20 日金曜日までに再開させる見通しだ。火災による被害の後、日本の組み立て工場は先週末まで運転していない状態であったが・・・

いかにしてこのような素早い復帰ができたのか。Journal は次のように報告している。

Mr. Ushijima (A senior associate at a Tokyo think tank) は次のように語った。トヨタのために独占的に作っていた Aisin の部品について、代替部品の品質を Aisin のものと同等のものが提供できるのか。私には Toyota が言うようなスムーズさで復旧が進むとか思えない。

木曜日までには、36 ものサプライヤが 150 にものぼる下請けの助けをかり、50 に近いラインを復旧させた。ブレーキバルブの小バッチを作るものだ。

総力戦で、サプライヤは再開し、製造は徐々に復旧したのだ。最初の 1,000 個の使用に耐えられる P-valve がどっと運ばれたのは水曜日の終わりごろだった。木曜日には 3,000 以上が届き、金曜日には 5,000 個が届いた。ゆっくりであるが、組み立て工場は再開できた。

Toyota の中のネットワークに一体何が起きたのか? ひとつあり得るのは、Toyota か Aisin に細かな管理を行う態勢が備わっていたという想定だ。Aisin が P-valve を製造するにあたって行っていた事を、200 もの他社に対して正確に教えたという事だ。しかし、これは現実的にはあり得ない。

The Journal は次のように分析している。「秘密は Toyota の、しっかりと結びついた家族のような部品供給との関係にある。Amish barn raising と同等な企業の中で、サプライヤと地元企業が救助に駆け込んだ。」当時の火災から1年後に発行されたケーススタディの中で、Toshihiro Nioshiguchi と AlexandreBeaudet は、火災からの復旧は、企業それぞれの「迅速かつ大きな自己組織化の働きによるもの」が成し得たという事を見つけた。これは、全体をとおして、P-valve より以前には前例のないような経験であった。はっきりと、先ほどの仮定に反するように、「Toyota の中でまさに小さな直接支配」が行われていたのだ。

これらの評価は、別のあり得る説明を提案してくれる。Toyota とサプライヤとの間に構築された特別な信頼関係の要素があり、それは密接に協力する中で得られたものだと。あるサプライヤ次のような事を言っていた。「Toyota の迅速な復旧は、グループの力によるものだ。それは、お金だとかビジネス上の契約といった考えてではないところから引き出されている。」Nishiguchi と Beaudet は次のように同意している。復旧は技術的な所有権だとか財務的な賠償といった事を抜きにして行われた。ただ、確かに、ロイヤリティは直ちに行われ、Toyota はサプライヤに対して、ボーナスを 1-3 月の売り上げの 1% を与えた。合計で $100 million にのぼる。

ご恩と奉公が働いたということは説明できるが、成果としてはまだ説明できない。Toyota は、多くの個々や組織をこの危機的状況下で変え、同じ反応を得なかったのだ。もし、Toyota や Aisin の細かな管理がもっともらしい説明ではなく、信頼関係が十分な説明ではないならば、どのようにして多くの組織のこれだけの人々が新しい製品や物流システムを、ものの数日で作り上げたというのか。

その鍵は自己組織化にあった。

Self-Organization: Complex Results from Simple Rules

ここに、High-Velocity organization のための 4 つの特性をルールとして示す。

  1. 設計:アウトプットを追い求めるという観点で、人、ステップ、流れを、出力を生み出す道に沿うように作ったワークシステムが必要である。それぞれのステップを繋ぐために、物質や情報をどのような方法で交換するか。そしてそのステップで使われる理論は何か。試行を伴うシステム設計には、直ちに、予測と発生するものの間のギャップを埋めることができなければならない。
  2. 改善:たくさんの問題は彼らに注目された瞬間に抑制され、調査され、迅速に解決される。解決の中で、問題により与えられた悪影響は関連づけられ、科学的理論に基づいた訓練により問題解決および更なる知識の付与が行われる。これが、将来的な成功のチャンスを増すための方法となる。
  3. 知識の共有:組織を通して、現場で得られた知見は何でもシェアされる。発見をシェアするプロセスは、特殊なソリューションと同じくらい大切だ。新たな視野は、広い用途に置き換えられ、より広大な利益へとつながる。
  4. 問題解決能力の開発:これらの能力開発は、リーダであるあなたの担当だ。

もし、我々が Aisin の火災からの復旧を間近で見ていたなら、自己組織が成功へと導いていた事がわかるだろう。なぜなら、これら 4 つの王道の能力とも言えるルールが、火災が管理下に置かれるよりも前に、偉大な訓練により実践されていることが確認できるからだ。

最初に、もちろん、把握するべき事はそこに処理すべき問題があるということだ。火事が起こって一時間以内に、それが管理下に置かれるよりも前に、Aisin は war room と呼ばれる部屋を作り上げ、蓄えていた 100 もの携帯電話と、230 もの固定回線、そして昼夜を問わずオペレーションを行うための寝袋を備えた。そして、直ちに、提供先の顧客とともに新しい業務プロセスを組み上げた。このタスクは 4 つのサブプロセスに分けられる。別の製造拠点を準備すること、それらを繋げるための物流ネットワークを立ち上げる、顧客と働く(Toyota は最大の顧客ではあるが、唯一の顧客ではないのだ)、そして、他社との間でグループとして働くことだ。

Aisin と顧客は、調査を始めた。どの P-valve の形式が、もう一度立ち上げ直す必要のあるものか。製造キャパシティには限界があるためだ。形式は 100 種類にものぼる。もし、顧客が P-Valve を 1 台の車種に 1 つ以上あるようなら、どれを高い優先度とするかを決めるようにした。

言い換えれば、最初のタスクはシステム全体として何をアウトプットと定めるかということになる。どれだけのパーツを、どの顧客に、いつ届けるか、だ。他の意思決定は、すべて一つのに集約される。助けを申し入れている企業たちのために、目的が直ちに定められた。Aisin は特殊な設計図をファックスで日曜日の朝に送った。火災のあったその日のうちの出来事だ。この権限委任はネットワークを通じて行われた。Toyota のサプライヤである Somic Ishikawa Inc. は自身の製造において余剰なキャパシティを Aisin が受け入れられるよう貸し出した。Taiho は混合のアプローチをとり、いくつかの通常作業と、いくつかの P-valve の製造を、サプライヤのうちの 11 社に分散させた。Kayaba は別のサプライヤであり、もともと P-valve の製造を行っていなかったが、彼らの補強の手助けとして、機器の効率と妥当性に基づき、3 つに担当を分担させた。Toyota 自身は P-valve の製造においていくつかの担当を持っていたが、臨時の製造拠点をつくり、試験工程や製品のメンテナンスを行った。

製造の担当に権限を下ろして行ったにもかかわらず、それぞれの自己組織化されたネットワークの中の自主的な集団は、同じルー理解に従って動いていた。技能を与え、利用可能な人と装置を制限する事で、欠陥のない P-valve を生み出す製造工程を作り上げることができた。

我々は、high-velocity organizations が、どのようにして他者を引き離すかを学んできた。すなわち、システムを設計のための能力、それを改善する能力、そして学んだ事をお互いにシェアし、組織がまるである一人の経験を皆で分かち合う事で。

これだけの速さや緊急性というのは、あまり無いものの、問題を協力して解決するという基本的なアプローチ、それぞれの場所で交わって学んでいく、そして個々に学んだ事をテコ入れして、システムを全体に広がるようにする様は、どのようなケースにおいても非常に親和性がある。

きめ細かな管理は重要では無いのだ。何故なら、従業員は全ての層にわたって訓練されており、どのような日々の仕事においても迅速に問題解決ができるからだ。