The High-Velocity Edge - Chapter 5 (3)

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アメリカ海軍の原子力潜水艦、商用ジェットエンジン開発、ウェブ広告と、それぞれの分野に於ける High-Velocity organization について。

Pratt & Whitney: 新製品の開発のため、ハイスピード、低コストを求める

Pratt & Whitney はジェットエンジンを開発する企業である。ジェットエンジンは、物質工学、燃焼力学、航空力学、制御システムにおいて高い技術力を必要とする。

従来のマーケットでは、一つの仕事において、$1 billion の投資を 4 年費やして行っていた。これにはシンクタンク(検討や方針決定を主とする)アプローチを用いていた。一方、Pratt & Whitney が直面する新しいマーケットにおいては、$300 million の投資額かつ 30 ヶ月の期間という、従来よりも厳しい環境で成果を出す必要があった。この状況下では、シンクタンクアプローチではなく、もっと別の方法が必要であった。

最初は、Pratt & Whitney は複数の部署にまたがる横断チームを設立し、異なる訓練や異なるコンポーネントの開発に協力してあたるというアプローチをとった。しかし、これは不十分であった。既に持っているナレッジを使い続けるというのではなく、役に立つ知識を生み出したり、構築していく必要があったのだ。

これを実現するために、Pratt & Whitney は Engineering Standard Work (ESW) を推進していった。ESW は、

  • 社員が仕事を始める際、組織全体が積み重ねてきた経験を上手く取り出す事ができるようにする
  • 組織全体が積み重ねてきた経験に対して何か誤りがあった場合、新しい知見を直ちに反映できるようにする

という理念を根幹としている。また、具体的なアプローチのため、次のツールを用いている。

  • workflow map(関係性)
    • 設計段階において、そのステップがどのシーケンスに起因して発生しているか、また独立した部分は何かを明確にする
  • design criteria(仕様)
    • それぞれのステップにおいて、依存するステップを満足させる要件が何かを明確にする
  • activity page(アプローチ)
    • 担当者は、案件を成功に導くため、その時点でベストな方法を公開する
    • その方法はツールや理論を用いて「どのようにな方法で」「どのような時に」「何故」を明示して説明する必要がある

これにより、知識を収集、シェアし、構築していくことができる。


一つの心配として、「もし自分の持つ知識やスキルを公開してしまうと、人々が実力を熟練させるための時間が実際のところ激減してしまうのではないか」というものが挙げられるが、これに対して ESW は、「制御された慣例の下であなたはイノベートさせるチャンスを与えられている。これによりあなたは、製造工程に余計なリスクを取り入れる心配がなくなる」と説明している。標準化は、「イノベートが必要な領域」と「イノベートさせる必要がない領域」を明確に区別する事ができるのだ。これにより、余計な領域に余計なリソースを注ぐことなく、必要なところに集中させることが出来る。

Avenue A: 混沌からしゃかりきになる

Avenue A は Web-based marketing のパイオニアである。

サービスとしては、概ね以下のようなものとなる。

  • Design: インターネットベースの広告展開に関する計画や、広告欄の買い付けを行っている
  • Implimentation: 広告を実現するための技術提供を行っており、自社でサーバや設備を有している
  • Optimization: 広告分析に関するデータを収集し、広告の最適化を行っている

ドットコムバブル崩壊後も、Avenue A は成長を続けてきた。成長の中で社員は増えていき、それぞれのステップにおいても多くの担当者が関係するようになってきた。そういった中で、問題も起こるようになってきた。

デザインフェーズを例に見てみる。キャンペーンの展開やテーマの開発のためには、どのような広告タイプがどのようなサイトで利用できるか、また、どのようなタイプの広告が有効であるかといったサーベイを行う。これら事項が顧客に提案し承認を受けてから、出版社(広告スペースの提供者)と広告費といった詳細な交渉が行われる。

出版社や広告オプションの数が増え、複雑になるほど、これらの調整をすることは難しくなってくる。次第に、それぞれの要件について依存関係が複雑になっていき、その結果として遅延といった問題が生じてくる。

最初の処置としては、ボトルネックとなる業務について人材を投入するという事を行ったが、これは根本的な問題を解決するための方法にならなかった。依然として、広告の内容や出稿先が決まってから「うちではこの広告は扱えない」という事象が発覚し、それを解決するために何度も電話やメールのピンポンが発生する、といった問題が見られた。

そのため、Avenue A は、業務を完遂させるため、全ての業務をマップ化して、キャンペーンの初めから完了までをきちんと動かすようにした。また、それぞれのステップにおいて、そのステップが次のステップに対して何を提供するべきかターゲットを明確にするようにした。

Avenue A は、混沌の中で標準化と自動化に舵をきる事で、High-Velocity organization, すなわち、複雑なオペレーションを通して複雑なサービスを常に高い品質で提供することの出来る企業になったのだ。