The High-Velocity Edge - Chapter3

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Chapter3:いかにして複雑なシステムが堕ちていくか

複雑なシステムにおける問題点として、「多くの人が相互作用を与えながら仕事をしていく必要がある」というものが挙げられる。それらの人々のバックグラウンドはそれぞれ異なり、当然彼らの持つ素養や強みも異なっている。

そういった状況の中で「そのシステムで何が起きるか?」を予測することは非常に難しい。

逆に言えば、不確かさ、予期できないこと、期待できることをうまく管理する事ができれば、それは the high velocity organization がフォロワーに対して大きなアドバンテージを保つための方法になりうる。

スリーマイル島における原発事故の例

スリーマイル島で発生した事故は、原子炉のメルトダウンが原因であった。これは、単に一か所の障害(メルトダウン)が原因であった。しなしながら、複雑なシステムの中でその全容を知る者はおらず、結果として多くの複雑な影響へと発展した。

これらを鎮静化するために、複数の関係各所による複雑なオペレーションを遂行する必要があった。たった一つの問題が多くの波及的な問題を引き起こす。これが、「複雑なシステムの抱える問題点」の特徴である。

患者の死:機能はあれどもプロセスがない

アメリカで、医療を受けていた高齢の女性の容態が急変し、亡くなるという事故があった。医学は十分に進歩しているし、医療スタッフも勤勉かつ十分なトレーニングを受けている。問題があれば最善を尽くす。そういった環境にも関わらず、こうした医療事故は発生している。なぜなら、医療におけるシステムが悪いからだ。

本件では、医療スタッフがインスリンとヘパリンを取り違えた事が原因であった。どちらも無色透明で、小さなビンに入っている。もちろん、ラベルには区別できるよう文字が書かれている。しかし、それだけの見分けを緊急事態の中でつけることができるだろうか? はたして誰が医療スタッフを責められるであろうか。

分析によると、大きな医療事故(死亡事故)を招く前に、5 から 10 の「ケガを伴う事故」が起こるといわれている。「ケガを伴う事故」を招く前には 5 から 10 のヒヤリとするような事象が起こる。それらの事象の前には 5 から 10 のささいなミスが起こる。つまり、死亡事故の前には 155 から 1110 もの予兆があることになる。その中で誰か一人が「おい、ちょっと待ってくれ。この小瓶はちょっとしたミスで混同してしまう可能性があるぞ。うっかりと取り違えて誰か殺してしまう前に対処しておかないと!」と声を挙げていれば、痛ましい事故は起こらなかったかもしれない。

まさにこういった活動が、the high velocity organization ではなされている。

2 名のクルーの死:コロンビア号爆発事故

2013 年にはスペースシャトルであるコロンビア号の爆発事故が発生した。それは外部タンクが原因であるように見えたが、調査委員会は単なる技術的な要因とは捉えず、NASA の組織的なあり方に問題があるとの見解を示した。

具体的には

  • 過去の成功に大きく依存した判断
  • 安全のために必要な情報のやり取りすらも阻害してしまうような組織間の障壁
  • 個々の問題を処理するための高度な管理能力が欠如している
  • 重要な事項が組織内ルールに規定されておらず、ルール外の運用がなされている

といったところである。

自動車メーカの例

次に述べる内容は、筆者が自動車メーカ(工場)で働いた時のものである。the high velocity organization とそうでないものを比較するために、インタビューや確認だけでなく、実際に働くことで違いを見出そうとしている。

トヨタの工場で働いた時には、筆者はビルという熟練者とともに製造フローにおける流れ作業を行った。作業の一工程の中で、筆者は難しい作業を発見した。それは、熟練者であればさほど難しいものではなかったが、筆者のように初心者にとっては失敗が起こりやすい工程であった。筆者はビルにその問題について伝えると、ビルはコンピュータの端末にその問題を入力し、「問題管理」をしたのだ。

この手の問題は複雑さをきちんと管理する組織のうまいやり方の縮図と言える。熟練した技術があれば解決できるような些細な問題でも、ある一定の技能まで到達していない人にとっては難しい。そういった事柄ですら問題として管理しておき、改善するための足掛かりを作っている。

一方で、そういった活動のできない工場では、例えばリーダーに報告したとしても、リーダーは目の前の問題を取り除くだけで本質的な問題解決に触れようとしない。その結果、同じような問題が何度も起こる。ほかの例であれば、問題があった時にはドタバタする中で各々が解決に乗り出し、結果としては困難は取り去られたとしても、後には何も(振り返りが)残らない、といったこともある。

これが、the high velocity organization とそうでない組織との決定的な違いである。