現地現物と本質

トヨタ自動車の中には、現地現物主義という言葉があるそうです。手頃なリンクを探してみたのですが、あまり良さそうな文献はありませんでした。ただ、第100期 中間事業報告書>トピックス にある通り、取締役クラスの人間を現場の最高責任者として、可能な限り現場で起きている事を上層部にフィードバックさせようとしている事は分かります。

現場の中に本質があるとすれば、社員はいかにしてその本質を掴んでいくかという話になります。現場に一番多く触れているのは現場にいる最前線の人間であるので、そういった人たちは「起きているモノ」を肌感覚として最も本質を捉える事が出来ているのでは、と考えられます。

では、マネージャはどうか。例えば、先の取締役クラスの人間を現場の最高責任者として、その配下にある全ての現場に対して現地現物を見て本質を捉える事が果たしてできるか、という疑問がわきます。もうそのボリュームになると「全てに一つずつ触れる事で本質を捉える」というのは不可能です。ただし、トヨタのような会社は現地現物によって会社をドライブさせているという事ですから、やはり本質的なものを何かしらの方法で(現場から経営層まで)共有できているのではないかと推測できます。

現地現物でないと困る状況を考えると、エスカレーションを通して必要な情報が抜け落ちていく、というのが一番最初に浮かびます。現場は警告を発していても、それがいくらかの管理者を経由していく中で最後には「問題ない」という報告となってしまう、というやつです。意図的に(隠蔽に近い形で)ドロップさせている場合もあるし、不要と思って話されなかった事が実は重大なトピックだったという場合もありますが、言葉として抽象化されていく過程で情報の解像度が落ちるのは致し方ないのは確かです。

これを解消させるためには二つの方法があります。「現地を定期的に見る事で、受けている報告と実際の状況のギャップを埋める(肌感覚を衰えさせない)」方法と、「現場責任者の視点で物事を捉えた時、何が重要かを現場レベルまで浸透させる」方法があります。前者は劣化した情報を復元させる、後者は、劣化させないよう圧縮させる情報をあらかじめ定義させる、と考えると分かりやすいかもしれません。

そのように考えると、本質とは「何が起きているか」ではなく、「起きている事に対してどういった考え方で向き合うか」という所にあるような気がしてきます。これに対しては自身として答えは持ち合わせていませんが、少なくとも組織が組織たる体裁を維持するには、現場レベルまで責任者の考え方を落とし込む必要は不可欠のように思います。それを行わずして「現場主義」とか「現場の声が会社を動かす」とかなんとか言われても結局は組織のベクトルがずれるだけで絵空事になってしまうでしょう。