問題解決の方法論の紹介

いわゆる問題解決における分析の方法論について紹介します。
テーマは「ある業務が抱える問題点をどのように抽出するか」です。

今回の考え方は制約条件の理論 (TOC) を基にしています。制約条件の理論は、google で調べればいくらでも出てきますが、きちんと理解するには The Goal という本を読むのが良いです。TOC について大まかに説明すると、工場の生産ラインの改善手法からスタートしていて、ゴールを生産ラインのスループット最大化に置いています。具体的にいえば少ない仕掛かり在庫で最大数の製品をアウトプットするという事です。現実の世界では、アウトプットした製品が全て売れるとは限らないのですが、それについては適切な資材料を調整する(仕掛かり在庫を増やさない)という制約を守る事でやはり解決できます。

スループットを最大化させる中で特に重要なのが、ボトルネックの存在です。ボトルネックを認識しその部分を調整する事によって、スループットを最大化させる事や前述したようなアウトプットの調整をする事ができます。なぜならば、ボトルネックの前段が最も仕掛かり在庫が溜まりやすく、ボトルネックの後段が最も仕掛かり在庫がはけやすいからです。そのため、『スループットを上げる、ないしは調整するためには、いかにしてボトルネックを見つけ出しそこに処置をするか」が鍵となります。

この考え方は、それぞれのプロセスが鎖のように繋がっているモデルであれば何でも(生産ライン以外にも)応用ができる可能性を秘めています。実際、制約条件の理論では、その考えを拡大し、プロジェクト管理や問題解決の方法論などにも応用されています。例えばプロジェクト管理であれば、プロジェクトにおいて遅延が発生しやすく、かつ遅延した場合に後段の計画に最も影響を与える部分をボトルネックと捉える事で、プロジェクトの遅延を最小限にとどめるよう管理ができる、といった具合です。個人的な経験では、何人かが分担して協力する業務においては「ここの稼働は多少遅れても良いけど、この稼働だけは絶対に死守しないといけない」というポイントを明確に皆で共有し、時には十分なバッファを用意する事で、案外コントロールできたりします。要するに、締めるところは締める、ってやつです。

前置きが長くなりましたが、本題に近づいてきました。ある業務フローが抱える問題をどのように抽出するかという話です。

問題をあぶり出す方法としては、様々な方法があります。例えば、MECE(漏れなくダブりなく)でマトリックスを切る事で問題となる領域を特定する、なぜなに分析で何故を 5 回繰り返して原因を特定する、といったところです。余談ですが、問題解決の手法は、経験則を最大限に生かしてロジカルな解法を見つけるというものが多いような気がします。とにかく、自分たちが置かれている状況に応じて何かしらの手法を使うわけですが、どの手法も案外しっくりこなかったりする場合が多いというのが個人的な感想です。

そういった中で編み出したのが、次のような方法です。ベースとなる考え方は TOC でいうところのボトルネックの特定、KJ 法による思考の分解および再構築で、それらをハイブリッドにさせたような感じです。

具体的な方法としては次の通りです。

  1. ある業務に携わっている人から「何が問題となっているか」をテーマにフリーフォームのアンケートをとる
  2. アンケートを集計しやすい形に分解する
  3. 分解したアンケートを集計、点数化する
  4. 業務フローをモデル化する(プロセス A とプロセス B が終わったらプロセス C に取りかかる、というような感じのものを矢印で繋げていけば良い)
  5. 作成したモデルの各プロセスに点数化したアンケートをプロットする(集計された問題 1 はプロセス B で起こっている、というように)

これにより、ある業務モデルにおいて「多くの従事者はどのプロセスが問題と感じているか」を可視化する事ができます。加えて、モデル自体が可視化されているわけなので、問題と思われているプロセスがそのモデルの中でどういう位置づけなのかもその依存関係が明白なっています。例えば、「多くの問題を抱えている(と認識されている)プロセス C は他のプロセスを集約した位置にあり、いかなる条件分岐に置いてもこのプロセスを経由しなければ業務が成り立たない」のであればプロセス C に処置をする事は非常に価値のある試みであると言えます。

ただし、この方法も万能ではなく、次のような問題を抱えています。

  • アンケートに答える人は、業務フロー全体に携わっている人でなければいけない(局所的な担当者では、自分の担当部分しか問題が見えていないので偏りが生じる)
  • アンケートの分解においては、区切り位置や区切り方を明確にしておかなければ最終的な集計が恣意的になる
  • モデリングにおいても同様に、答えありきでモデリングしてしまうと恣意的になる

うしろ二つについては、そもそも問題を解決するために経験則を最大限に発揮させるという考えが根底にあるので、注意しつつ「そういうもんだ」と割り切るしか無いかもしれません。特に危険なのがアンケートを答える対象の選定かなと思います。最近の業務分掌はあまりにも縦割すぎるというケースも珍しくないので、そういう組織における業務改善にはこの方法は全く向きません。

<参考>
The Goal(工場の生産ラインにおける TOC の活用)

ザ・ゴール ― 企業の究極の目的とは何か

ザ・ゴール ― 企業の究極の目的とは何か

The Goal 2(問題解決における TOC の応用)
ザ・ゴール2: 2

ザ・ゴール2: 2

Critical Chain(プロジェクト管理における TOC の活用)
クリティカルチェーン―なぜ、プロジェクトは予定どおりに進まないのか?

クリティカルチェーン―なぜ、プロジェクトは予定どおりに進まないのか?